ジョン・レノンを心酔させた男 マジック・アレックス死去

ビートルズの迷走期に華を添えたサイエンティスト、マジック・アレックスことヤニ(のちにジョンと名乗る)・アレクシス・マルダス(アレクシス・マーダス)が2017年1月13日に出身地のアテネで亡くなりました。74歳でした。
ジョンとポールを掌中に収めるマジック・アレックス(上)

1966年に ジョン・レノンに会った彼はその革新的な超絶科学ビジョンでジョンに取り入り、「グル」や「マジック・アレックス」という称号を得ています。その後はビートルズの取り巻きの一人として様々なプロジェクトに関与しました。映画『Magical Mystery Tour』にもバスツアーの参加者として出演しています。

ビートルズのインド旅行にも帯同し、尊師マハリシ・ヨギの性的スキャンダルを告発したのは彼とのことです。ビートルズの名曲「Sexy Sadie」ができたのは彼のおかげと言えるかもしれません。一方、それは冤罪であり、マハリシのジョンへの影響力の拡大を恐れたマジック・アレックスがマハリシを陥れるために噂を広めた、という説もあります。

追記:この点はドキュメンタリー映画『ビートルズとインド』(NHK BS1『BS世界のドキュメンタリー』)でも語られていました。レビューは→こちら

 
ジョンと前妻シンシアの離婚にも関与しています。シンシアに最初にジョンの離婚の意思を伝えたのはマジック・アレックスでした。その前後シンシアのいるところにマジック・アレックスが度々現れてシンシアに言い寄ったそうです。ジョンはマジック・アレックスをシンシアにあてがって離婚を自身に有利に進めるよう目論んだのかもしれません。

そんな彼も同年結婚しています。結婚式にはビートルズのメンバーや関係者も参列しており豪華です。

ジョン夫妻、ジョージ夫妻、マル・エヴァンス、ドノヴァン、ピーター・アッシャーら

 

ビートルズが作った会社アップル・コアの創立メンバーでもある彼はビートルズから潤沢に資金を引き出し、エレクトロニクス部門のトップとしてトンデモ発明に精を出していましたが、ビジネス面では成功を収めなかったようです。

マジック・アレックスの最も有名なエピソードとして知られているのは、ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの目の前でEMIスタジオ(後のアビーロードスタジオ)の設備を酷評し、「俺だったらもっとすごいの作れる」と新スタジオの構築を買って出たというものです。72トラック録音、 目に見えないバリアでリンゴのドラムの音漏れを抑制、などなど夢の技術をぶち上げ巨額を投じましたが、実際にスタジオに行ってみると何一つ完成しておらず、とりあえずスタジオとして使えるようになるまでジョージ・マーティンとエンジニアのジェフ・エメリックが苦労したそうです。

追記:『ザ・ビートルズ:Get Back』でもお笑い担当として言及されています。残念ながら本人の直接の登場はありませんが。

これが決定打となったのか、ビートルズの新マネージャーアラン・クレインによりアップル・コアから追放され、ビートルズとの関係は終わりました。

 晩年の彼の動向は不明ですが、ジョンゆかりの品をオークションに出品するなどしていたようです。とくにジョンとジョージ・ハリスンが弾いた写真が残っているギターはその後も高値で取引されています。このギターはマジック・アレックスの誕生日プレゼントとしてジョンから贈られたものです。
くわしくは過去の記事をご覧ください↓
ジョン・レノンとジョージ・ハリスンが弾いたギター 4200万円で落札される

ビートルズに愛され、サイケデリックの時代に愛されたマジック・アレックス。時代が時代なだけに混迷の象徴としておもしろおかしく取り上げられることが多い彼ですが、本人は自身の扱いに納得していないようです。2010年にニューヨークタイムズに声明を発表しました。
http://graphics8.nytimes.com/packages/pdf/arts/Mardas.pdf


オノ・ヨーコが追悼コメントを発表しています。彼は技術者というよりはアーティストだったのかもしれません。

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2 コメント

  1. ピーターブラウンが書いた「ラブユーメイク」って本に、「彼とシンシアとの関係」や、ジョンがシンシアと離婚するために「彼にそれ」をけしかけた事が「事実」として書いてあった。

    最新の(辞書みたいに分厚い)本「ビートルズ史」が、それに触れるのか多少興味はある。
    ※今となってはそんな事どーでもいいかww

    合掌。

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    1. コメントありがとうございます。

      今回の訃報に接し調べた範囲ではシンシア側の証言しか収集できませんでした。その状況からジョン黒幕説を想像しましたが、それを裏付ける記述があるのですね。勉強不足でした。

      この件が載った「ビートルズ史」が発売されるのはいつになるでしょうね…。

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