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3D映画ブームが一段落した以降、映画館はさらなる付加価値向上のために様々な取り組みを行っています。五感に訴えかける「4D」のようにアトラクション化が加速する一方、コンサートのライブビューイング等映画以外のコンテンツを映写する需要が増えるに従い、音響にこだわった映画館が増えてきました。その先駆者であるシネマシティ(東京都立川市)の「極上音響上映」で『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK ~ The Touring Years』を鑑賞してきました。

本作品は先週の特別先行上映で鑑賞済みですが(レポートは→こちら)その際は前売券「ムビチケ」が使用できなかったため、もう一度見る必要がありました(おまけ目当てでムビチケ第二弾を購入)。となれば少しでも付加価値の高い場所でということで今回シネマシティへ行くことにしました。シネマシティではムビチケのメリットであるはずの座席予約はできませんが(別途独自予約システムを運用中)窓口で申告すれば前売券としての権利は行使できます。
ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK(シネマシティ)

シネマシティは建物も内装も美術館のような作りで上品でした。シネマ・ツーa studio内のスピーカーは確かに通常の映画館とは異なり、縦長で大ぶりなラインアレイスピーカーが吊り下げられていました。
肝心の音響ですが、先週観たTOHOシネマズ新宿に比べ、高域から低域まですっきりと聴こえた気がしました。とはいえ話し声には音圧が感じられたものの、演奏は音量もTOHOシネマズ新宿とあまり変わらず、全体として特別感があったかと聞かれればそうでもありません(同館の名物企画「極上爆音上映」とは別かも?)。これは50年前の音素材の質に限界があったことや、TOHOシネマズ新宿の音響も充分上質であるということなのかもしれません。一方、本編終了後のシェイ・スタジアム公演は歓声が劇場を包むように鳴り響き、演奏も迫力が感じられました。こちらは本編の監督ロン・ハワード関わっておらず、アップル・コアの通常の布陣で制作されたので音響面での相性が良いのかもしれないと思いました。シェイ・スタジアム公演が目当ての方は立川まで足を運ぶ価値がありそうです。なお、今回はa studioで鑑賞しましたが、今後はより小規模のc studioでの上映も多いためこの印象が当てはまらない可能性があります。


本編の感想をまとめます。ファーストインプレッションは特別先行上映のレポートをご覧ください。

ビートルズのライブに関して一般人が保有する映像/写真/エピソードをインターネットを通じて広く集める、というプロジェクトから始まった今作ですが、最終的には単なる伝記物に成り下がってしまったように思います。ビートルズのファンでない人にもアピールするよう求められたからかもしれません。思ったような素材が集まらなかったからかもしれません。 だとしても当初の志は確実に履行するべきでした。アンソロジーなど、既存のドキュメンタリーとの差別化があまりできていないように思います。
そういった意味では各アルバムのランキングを紹介したり、スタジオでのシーンは不要だったと思います。ジョージ・マーティンが登場しないという英断もありだったと思います。 発掘した断片的なライブ映像/音声だったとしてもビートルズ初心者にもその貴重さやビートルズの特別感は伝わったはずです。せっかくブライアン・エプスタインに大きく注目しているのですから、ビートルズのライブ演出の秘密にもっと迫ってほしかったです。マイク2本、ポールが左/ジョンが右、演奏後のお辞儀、短い公演時間、事務的なMC、・・・。ブライアン・エプスタインの意図が反映されているはずです。
ビートルズの最終公演であるキャンドルスティック・パーク公演ですっきり本編は終わらず、アルバム「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」の制作現場を描き、以降のアルバムの存在に漏らさず触れたあと、1969年1月のルーフトップ・コンサートの映像で終わっています。ライブ映像で終わりたかったということかもしれません。にもかかわらずキャンドルスティック・パーク公演の素材が不足していたのかもしれません。そうであれば、1965年のシェイ・スタジアム公演の演奏開始直前まで描いてそこまでで一旦止め、キャンドルスティック・パークでのコンサート中止までを描き、最後にシェイ・スタジアム公演の映像をたっぷり流して「I'm Down」でスタッフロールを流しながら終わる、という演出もあったと思います。
ストーリーについて監督本人も認めていますが、視点がアメリカ寄り過ぎます。ケネディ大統領暗殺、ベトナム戦争、・・・。とくに人種差別に関する描写に時間を割き過ぎだと思いました。これはポール・マッカートニーが今回の映画制作の過程で思い出したエピソードらしく、こだわっている様子があるのでそのせいかもしれませんが。ワールドプレミアのインタビューでもポールは毎回この件を持ち出していました。リンゴも近年のピース&ラブ活動に合致することから重要視していそうです。

アメリカ寄りなのは別に構わないのですが、でしたらビートルズがアメリカで受け入れられた理由、キャンドルスティック・パーク公演でツアー活動に終止符を打った理由、最終公演当日のメンバーの様子(カメラをステージに持ち込む等)をじっくり描くべきだったと思います。この二つのポイントがあまりにもあっさりとし過ぎていました。イギリスで一位になっていきなりエド・サリヴァン・ショーに出てしまいましたし、キャンドルスティック・パークのライブ音源が使われていなかったのには驚きです。
ストーリーは関係者のインタビューで進行します。存命のポール・マッカートニーとリンゴ・スターの最新インタビュー、故人であるジョン・レノンとジョージ・ハリスンの過去のインタビューを上手に使用していました。とくにジョージ・ハリスンは一つ一つの発言が重く、ストーリーの展開に重要な役割を担っていました。苦言を呈するとすればジョンとジョージについては発言時期を明らかにするべきだと思いました。ポールやリンゴとは最大40年の差がありますし、発言時の境遇や心境によって発言内容も変わってくるはずです。ジョンもジョージも採用されたインタビューの時期が様々だったのでなおさらです。
メンバーだけでは足らなかったのか他の人の現代のインタビューも使っていますが、最低限映像に出演している人に限定した方が重厚になったと思います。とはいえ、ウーピー・ゴールドバーグ(当時の映像には登場せず)の話し方はさすが女優だけあって感動的だったので、前半をウーピー・ゴールドバーグがナレーターを務め(自身が体験したこと以外も話す)、中盤はビートルズのアメリカツアーに同行したラリー・ケインに一任するなど、ストーリーテラーを絞った方が良いと思いました。とくにラリー・ケインは本作にロードムービーの風合いを与えており、爽快です。

映像についてはモノクロ映像を着色したり、同じ場面の動画と写真を組み合わせたり(キャンドル・スティックパーク公演で効果的)、ビートルズと直接関係無い当時の映像を差し込むなど意欲的でした。写真もただ表示するだけはなくタバコの煙や雨をアニメーションで追加したり、ズームの際は前景と背景を切り離してズーム倍率を変えて遠近感を出す(2009年公開の各アルバムメイキング映像の手法をもう少し穏便にした感じ)など行っていました。こういった編集は原典を侮辱すると批判的な方もいると思いますが、映像作品として面白くするためには積極的に行うべきではないでしょうか。CGを使って3次元的に映像を加工しても良かった思います。シェイ・スタジアムの上空からドローンのような視点でメンバーに迫る、等。
音声も本来の映像には無い歓声や効果音を足すなど攻撃的でした。とはいえ、ライブ映像の音声を別公演のものに差し替えたり(ABCシネマの2曲)、本来は半音下げチューニングのライブ演奏を標準チューニング相当に上げたり(エド・サリヴァン・ショー初回、ワシントンDC公演、日本公演初日)はやり過ぎなように感じました。少しでも質の高いものを届けたいという意気込みなのでしょうが・・・。

様々批判的な事を書いてしまいましたが当時の熱狂は充分体感することができましたし、ビートルズの最新映画を世界と一緒にリアルタイムで鑑賞できる喜びは何事にも代えがたいものです。今は純粋にこの興奮に身をゆだねたいと思います。次の楽しみは本作品のDVD/Blu-ray発売です。海外ではすでに11月発売が発表されており、豪華版は映像特典が豊富なようです。没になったインタビューが多く収録されるはずです。今回日本では日本のシーンが多めに登場するバージョンが劇場公開されていますが、これがDVD/Blu-rayではどうなるのでしょうか。


ファーストインプレッションで書き漏らした、今回驚いたシーン
  • ジョンとジョージの成り上がりに関する掛け合い(音声収録は別々で時期も違いそうだがどうやって編集した??) 
  • 電車内でのポールへのインタビュー(1964年2月)
  • ジョージが車を運転し、リンゴを連れ去る
  • テレビ番組でブライアン・エプスタインがリチャード・レスターを紹介して映画『Help!』について尋ねる
  • スペイン公演で闘牛士風(?)の帽子をかぶるジョン
  • ハンブルクでの記者との対決(1966年)
  • 断片的に使用されるレアっぽいライブ映像
  • キャンドルスティック・パーク入場時の映像(レア)と写真(既出)のコラボレーション