ビートルズが世界へ羽ばたく前に演奏を重ねた、リバプールのキャヴァーン・クラブ。2026年10月8日、その運営会社Cavern City Toursの所有権が「14 Collective」へ移ったことが発表されました。長年の所有者には、ジョン・レノンの異父妹ジュリア・ベアードも名を連ねています。
2027年1月には開業70周年を迎え、ミュージアム・オブ・リバプールで記念展も始まります。今回の経営交代を機に、引き継がれる事業とクラブの歴史、ポール・マッカートニーが何度も戻ってきた足跡、そして記念展の見どころを整理します。
キャヴァーン・クラブが経営交代――70周年を前に新オーナーへ
クラブの公式発表によると、今回引き継がれたのはキャヴァーン・クラブに加え、Cavern Pub、Cavern Restaurant、ビートルズゆかりの地を巡るMagical Mystery Tourなどを運営する事業です。
新所有者の14 Collectiveは、文化的な観光施設の保全と発展を手がけるグループとして紹介されています。Cavern City Toursの取締役には、リバプール出身で音楽業界に携わってきたKeith Blackhurstと、14 CollectiveのCEOであるRoderik Schlosserが加わります。既存の運営チームは残り、各事業は通常どおり営業を続けると説明されています。
引退のため、5年以上かけて後継者を探していた
旧所有者はBill Heckle、Dave Jones、George Guinness、Julia Baird(ジュリア・ベアード。ジョン・レノンの異父妹)の4人です。取引を担当した法律事務所Brabnersの発表で、Heckleは全株主の高齢化を引退の理由に挙げ、考え方を共有できる適切な後継者を探すのに5年以上かかったと説明しています。
同発表では、Cavern City Toursとしての歩みを43年、そのうちキャヴァーンを所有した期間を35年としています。現在のクラブを長年支えてきた人々の世代交代という点が、今回のニュースの中心です。ジュリアも、自分にとっての寂しさと、今後への前向きな思いの両方を表明しています。
ジャズの地下クラブから、ビートルズが育った場所へ
キャヴァーンが開業したのは1957年1月16日。場所はマシュー・ストリートの倉庫の地下でした。創設者Alan Sytnerが目指したのはジャズのライブ会場で、開業当初からビートルズのための場所だったわけではありません。1959年にRay McFallへ経営が移ると、地域のビート・グループが活躍する場としての性格が強まっていきます。(クラブ公式史:1950年代)
ビートルズ名義での初出演は1961年2月9日。同年11月9日にはブライアン・エプスタインが昼公演を訪れ、彼らの演奏を初めて見ました。最終出演は1963年8月3日で、クラブ公式史はその間の出演回数を292回としています。客席との距離が近い場所で演奏を繰り返した経験は、ビートルズのステージを考えるうえで欠かせません。(クラブ公式史:1960年代)
当時の様子を伝えるのが、1962年8月22日にGranada TVが撮影した「Some Other Guy」などの映像です。リンゴ加入直後の4人が地下のステージで演奏する姿からは、大会場で歓声に包まれる時代とは異なる近さが伝わります。撮影の経緯と映像は、クラブ公式の撮影60周年記事でも紹介されています。
現在のキャヴァーンは当時のまま?――閉鎖、移転、再建の歴史
「70周年」と聞くと、ビートルズが出演していた地下室がそのまま営業を続けているように思えるかもしれません。しかし、現在に至るまでには閉鎖と再建がありました。
クラブ自身による歴史の解説では、1973年に元の場所を閉じ、道路の向かい側へ移転した経緯が説明されています。元の地下室は埋められ、後に掘り起こされましたが、壁の状態が悪く、そのまま再使用することはできませんでした。
そこでレンガを回収して再建し、1984年に再オープン。現在のクラブは元の敷地の約70%を占め、当時のレンガを再利用しているとされています。「無関係な場所に造られた同名の店」とも異なる位置付けです。
また、現在は特徴的なアーチのあるステージに加え、より大きなCavern Live Loungeがあります。ポールが1999年と2018年の帰還公演で立ったのはこちらです。(Cavern Live Loungeの公式案内)
ポール・マッカートニーの帰還――1968年から2018年まで
よく知られているのは1999年と2018年の公演ですが、私的な再訪も含めると、ポールとキャヴァーンのつながりはもう少し長く続いています。
1968年:リンダと訪れ、「Hey Jude」を披露
クラブ公式史によると、ポールは1968年10月25日、当時交際していたリンダ・イーストマンと予告なく訪れています。ラウンジのピアノで「Hey Jude」を弾き、その後、リハーサル中だったCuriosity Shopというバンドにドラムで加わったと記されています。これは1973年の閉鎖より前の出来事です。1963年のビートルズ最終出演から1999年まで、一度も戻らなかったということではありません。(クラブ公式史:1968年10月25日)
1999年:『Run Devil Run』とともにステージへ
1999年12月14日には、約300人の観客を迎えて公演を行いました。共演したのはデヴィッド・ギルモア、イアン・ペイス、ミック・グリーン、ピート・ウィングフィールドら。発売したばかりの『Run Devil Run』につながる、ロックンロールを中心としたステージでした。(ポール公式公演記録)
クラブ公式史によると、この公演は日本のテレビでも生中継され、後にDVD『Live at the Cavern Club』として発売されています。若い頃に親しんだロックンロールへ向き合うアルバムと、キャヴァーンへの帰還が重なった公演として、日本のファンにも印象深い出来事でした。(クラブ公式史:1999年12月14日)
2003年:貸切パーティーでも再訪
2003年5月には、ツアー終盤のパーティーをキャヴァーンで開いています。クラブ公式史には、入口に私的な退職祝いのパーティーと掲示され、ポールが地下にいるとは外から分からなかったという話が残っています。別の公式解説では、この年にもステージで演奏したことに触れています。(クラブ公式史:2000年代/クラブ公式解説)
2018年:昔の曲と新曲を交えた、約2時間の公演
2018年7月26日の公演は、『Egypt Station』発売に向けた小規模ライブの一つでした。クラブの報告によると、「Twenty Flight Rock」「In Spite of All the Danger」「Love Me Do」など、自身の出発点に近い曲から、「Band on the Run」、当時の新曲「Come On to Me」まで演奏。約2時間にわたって、キャリアの幅広い時期をたどりました。(ポール公式公演記録/クラブの公演報告)
この日の帰還をまとめた映像が、ポールの公式YouTubeチャンネルで公開されています。
Paul McCartney at The Cavern, July 26th July/PAUL McCARTNEY公式。YouTubeで見る
さらに公式サイトには、アビイ・ロード、LIPA、キャヴァーンで収録したQ&A映像もあります。キャヴァーンの楽屋では、ライブで難しい曲について、複雑なベースを弾きながら歌う「Being for the Benefit of Mr. Kite!」を例に挙げています。(公式Q&Aと文字起こし)
ポール公式サイト掲載の2018年7月のQ&A。キャヴァーンでの収録分も含みます。YouTubeで見る
2027年1月16日開幕――キャヴァーン70周年展
新体制で迎える70周年に合わせて開催されるのが、「70 Years of The Cavern Club」です。キャヴァーンとNational Museums Liverpoolが協力し、ジャズ・クラブとしての始まりから現在までを紹介します。会場はミュージアム・オブ・リバプールです。(記念展の公式発表)
| 展覧会名 | 70 Years of The Cavern Club |
|---|---|
| 会期 | 2027年1月16日~10月31日 |
| 会場 | Museum of Liverpool ミュージアム・オブ・リバプール |
| 案内・予約 | National Museums Liverpoolの公式案内 |
展示チケットについては、キャヴァーンの2026年9月10日の発表で、一般販売を9月14日から開始すると案内されています。予約は上記のNational Museums Liverpool公式案内から確認できます。(キャヴァーン公式の展示・チケット案内)
担当学芸員Karen O’Rourkeによる展示ツアーも
関連企画として、展示担当学芸員Karen O’Rourkeが案内するツアーも公式サイトに掲載されています。クラブ創設の背景からマージービートとビートルマニアの広がり、経営上の浮き沈み、現在のライブ会場としての役割まで、70年間をたどる内容です。キャヴァーンを支えた人々や、クラブにまつわる逸話の事実関係を、音楽も交えて紹介するとしています。
ツアー料金には70周年展の入場料も含まれます。開催日・時間・料金や予約の可否は、National Museums Liverpoolの学芸員ツアー公式ページからご確認ください。
ジョンのジャケット、ポールの化粧台、ジョージの手紙――展示の見どころ
2026年9月10日の展示内容の公式発表では、200点を超える資料や写真、楽器、私物を紹介するとしています。発表済みの主な展示品は次のとおりです。
- ジョン・レノンの茶色のスエード・ジャケット:『With the Beatles』の録音時や1964年の北米ツアーで着用したもの。
- ポール・マッカートニーの化粧台:キャヴァーン初期の舞台裏で使われたものとして紹介されています。
- ジョージ・ハリスンの手紙:ハンブルクからキャヴァーンのDJ、ボブ・ウーラーへ宛てたもの。
- ジェリー・マースデンのアコースティック・ギター:マージービートを担ったミュージシャンの資料。
- 15歳のスティーヴィー・ワンダーの出演契約書:1966年1月のキャヴァーン出演に際して署名されたもの。
ポスターや当時の出演順の資料に加え、キャヴァーンのステージを再現した展示も予定されています。手紙や楽屋の品、出演契約書が並ぶ構成には、ステージ上だけでは見えない人間関係や仕事の積み重ねを知る面白さがありそうです。
新体制で迎える70周年――現在のライブとInternational Beatleweekへ
キャヴァーンは現在もライブ会場として活動しています。公式の出演案内では、常連ミュージシャンによる演奏に加え、オリジナル曲を演奏する新進アーティストの企画も紹介されています。ビートルズ・バンドが出演を目指す場合には、International Beatleweekへの応募が有力な機会として案内されています。
10月の経営交代発表では、新体制がライブ音楽と若手支援を重視する姿勢を示すとともに、2027年8月のInternational Beatleweekでも70周年を祝うとしています。個別の出演者や企画は、今後の公式発表を確認したいところです。
2027年にリバプールを訪れるなら、博物館の70周年展で歴史をたどり、キャヴァーンでは現在の演奏を聴くという楽しみ方ができます。ポールが新しい曲を携えて戻ったように、次の世代にも演奏する場として使われていくか。新体制のキャヴァーンを見るうえで、注目したい点です。
※基本情報は2026年10月18日時点の公式発表に基づきます。2026年10月26日、展示チケットの販売開始日の案内と学芸員ツアーの情報を追記しました。展示内容や関連イベント、入場・予約条件の最新情報は各公式サイトをご確認ください。

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