レポート:ポール・マッカートニー 千秋楽 東京ドーム公演 2017年4月30日

ポール・マッカートニー「ワン・オン・ワン ジャパン・ツアー2017」千秋楽となる2017年4月30日東京ドーム公演に行ってきました。僕は前日の4月29日公演には行っていないので本ツアー3回目の参加です。

無事最終日を迎える安堵感とこれから数時間後にはすべてが終わってしまうという寂しさが入り混じった会場は開演前から盛り上がりを見せていました。昨日に続きステージ脇の「参加席」が発売されたので「超満員」と形容しても良いでしょう。参加予定が無かった人も前日までの評判を聞きつけたり、1度だけでは飽き足らなくなって駆け付けたりしていたようです。

今日のポールは初日と同じ衣装でした。前日のカジュアルな衣装がなおさら特異に感じます。前日はホテルを出る時の上着、また本番のジャケットにも黄色い花が添えられていました。ちょどその日の朝に北朝鮮が弾道ミサイルの発射に失敗しており、この装いはポールの平和に対する意思表明なのではないかと考える人もいました。一方、今回の日本公演のイメージを決定づける今日のジャケットの二の腕にはミリタリーとおぼしきエンブレム(軍曹=サージェントペパーズ?)をつけているわけで、おそらくポールは当初意識していなかったでしょうが戦争と平和の対比となっています。
 ついに始まった1曲目はOne On Oneの代名詞「A Hard Day's Night」。会場は手拍子と合唱につつまれました。つづく2曲目は「Junior's Farm」。ウイングスのシングルの中では知名度が比較的低いと思うのですが、それを2曲目にするのがアグレッシブです。楽曲自体の良さと終盤のシャウトでビートルズしか知らない人もひきつけます。
「コンバンワ トウキョウドーム。コンヤタノシモウヨ!」で始まった曲は「Can' Buy Me Love」。前曲を知らず面喰った人も安心させる小気味良い選曲です。
続く曲はこれまでの法則では東京ドーム初日と同じ「Letting Go」が予想されましたが前日と同じ「Jet」でした。東京ドーム初日が特別だったということになります。声の疲労がピークになる最終日の公演であえてキーの高いこの曲を選んだのは何故でしょうか。前日までの3公演でJetの方が反応が良いことを感じたのかもしれません。
 「ボクハ ポール・マッカートニー デス オス!」 日に日に日本語が増えてきます。外来語を日本語っぽく発音することに凝っているようです(他には「ビートルズ」や「ゴールデンウィーク」など)。次は「エレクトロニック」という紹介で「Temporary Secretary」。個人的にはこの曲は日本公演ではやらないと思っていました。反応に困っている観客もいそうでしたが、若い人には評判が良いのではないでしょうか。打ち込みのフレーズに乗せたブライアン・レイのアコースティックギターのカッティングが効果的でした。
ここで一息ついて、当然「Let Me Roll It」。正直この曲には飽きたなと思っていましたが今回のツアーで認識を改めました。この曲までに会場が充分盛り上がっていればその落差でこの曲の魅力が増すのです。ポールはこの曲で左袖のボタン、右袖のボタン、胸のボタンを順番に外していきます。そのタイミングは毎公演同じであたかも横綱の土俵入りのような様式美です。会場はその所作を固唾を飲んで見守るべきなのだと思いました。

ここまで来れば後は半ば自動的に進んでいきますが、序盤の難所「Maybe I'm Amazed」が待ち構えています。この曲の出来がライブ全体の出来を決めると言っても過言ではありません。今日の結果は・・・惨憺たるものでした。3日前の東京ドーム公演初日は近年稀に見る出来栄えでしたが、今日はもう声が限界と感じました。演奏を終えたポールもいら立っているかのような、テンションが下がっているかのような様子に見えました。今回の4公演では同曲の前に亡妻リンダの名前を口にすることはありませんでした。ポールの中で心境の変化が起きているのかもしれません。この曲がライブで聴けなくなる日も近いのではないか?と思いました。
 もし本当にテンションが下がっていたとしても、今日はその後のアコースティックコーナーで会場の温かい反応によって癒されていたように思います。「In Spite of All the Danger」のコーラスや「Love Me Do」の手拍子はポールも大満足だったのではないでしょうか。このコーナーではキーボードのウィックスもドラムのエイブも前に出て来て比較的小さな音で演奏します。非常にアットホームな雰囲気でポールの負担も少ないでしょうから、もし今後来日公演があるならもっとこのコーナーを増やしても良いと思います。
つづく「Blackbird」「Here Today」までにはすっかり調子を取り戻したように見えました。今回のツアーでは「Here Today」の前に「ジョンが亡くなったときに作った」とジョンの死に直接言及しています。これは「ジョンのため」とだけ説明していた前ツアーまでとは異なります。
この後はマジック・ピアノ改(前面がディスプレイになっている)の曲が続きます「The Fool on the Hill」が今回追加されていますが、今のポールにとってもっとも歌いこなしにくいタイプの曲だと感じました(中途半端に高い音が続くがかといってシャウトするわけにもいかない)。
 その後は最新曲「FourFiveSeconds」も披露しました。非常に現代的な曲ですが、ポールが歌うとポールっぽくもあります。実際ポールがどの程度関与して作ったのでしょうか。 終わり方が気に入りました。
「ニホンハツコウカイ」→「トウキョウドームハツコウカイ」→「コンカイハツコウカイ」と日に日にレアリティが下がっていく「I Wanna Be Your Man」の後はアルバム『Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band』発売50周年枠で「Being for the Benefit of Mr. Kite!」・・・といっても2013年/2015年日本公演でも演奏しています。ポール自身同曲のベースラインを気に入っているそうで、光の演出も今ツアーで強化されましたのでしばらくはセットリストから外れなさそうです。
ポール本人がSgt.Pepper's~の50周年に言及しているのは感慨深いです。「50年だなんて信じられない」と言っていました。「俺だってまだ52歳なのに」とオチをつけることも忘れていません。
この後の「Band on the Run」から終盤にかけての充実度合いが今回の日本公演の特徴です。「Live And Let Die」では特殊効果が大幅に追加されています。例えば以前は花火的な火花の演出は無かったと思います。

本編最後の「Hey Jude」では各観客席に備え付けられた青いサイリウムがいっせいに輝きだしました。これは主催者が仕込んだポールへのサプライズで2013年以降最終日に観客参加型の光の演出を組み込むのが定番になっています。その光景に気づいたポールは目を見開いて驚いたり、すごすぎて思わず笑ったり、「ファンタスティック」という言葉を連発したりしていました。

演奏にも次第に熱がこもり、会場一体となったうねりが曲を高みへと押し上げていきました。ポールもそのエネルギー(いわゆる元気玉?)を受け取ってさらにさらに大きく見えます。演奏後もしばらくポールは余韻を楽しんでいるように見えました。そういえば、観客に歌わせるときの呼びかけが2013年「ダンセイ/ジョセイ」→2015年「ジョシ/ダンシ」と変わっていたのが今年は「ダンセイ/ジョセイ」に戻っていました。てっきり2015年はLGBTに配慮したのかと思っていました。ちなみに、今回アンコールで振っている旗は祖国イギリスの国旗、公演地日本の国旗、LGBTの社会運動を象徴するレインボーフラッグです。
 アンコールでのYesterdayは名演でした。観客全員の想いがサイリウムの光を媒介にしてポールの声帯に乗り移ったかのようでした。
次の曲は今ツアー初演奏となる「Get Back」でしたが、演奏者の誰かが段取りを間違えたらしく、最初のコードは「Hi, Hi, Hi」のものでした。その後何事も無かったかのように「Get Back」の演奏が続きました。演奏を終えた後ポールが次の段取りを見失っているようでした。(追記:セットリストは予定通りだったようです。なまじっか変更したばっかりにメンバーが混乱したのは事実でしょう。「Get Back」の出だしで間違えたのはコード弾き担当のラスティかもしれません。)
次の曲の「Hi, Hi, Hi」の後もしばらくベースを持ってたたずみ、ピアノに移動するのが遅くなりました。おそらく前日までと同様、「Hi, Hi, Hi」の前にファンをステージに上げて(4月29日は不実施)その後にもう1曲演奏してエンディングのはずが、1曲飛ばしてしまったのでしょう。
「Golden Slumbers」の前では今回の日本公演で定番となったフレーズ「モウソロソロ」で空気を読むことを強要され、会場はしかたなくエンディングを受け入れました。
「Hey Jude」以降はポールから見て正面の天井にポールへのメッセージが投影されました。サイリウムだけでは2013年と同じになってしまうので考えた結果でしょう。 ポールは気付いたでしょうか?
「The End」でのギターソロ合戦がいつまでも続くように祈りますが終わりはやってきます。ポールからのメッセージ「And, in the end, the love you take/ Is equal to the love you make.」とともにポールの2017年日本公演は終了しました。
「Hey Jude」以降の会場の一体感とポールとの相乗効果は印象に残るものとなりました。



甲虫楽団Presents【祝Sgt.Pepper'sリリース50周年 完全再現ライブ】
日付:2017年7月15日(土)
開場:18:15
開演:19:00 ※アルバム全曲/その他の曲の2ステージ構成。間に休憩を挟みます
終演:21:30予定
場所:赤坂「GRAFFITI(グラフィティ)」 東京メトロ 赤坂見附駅 徒歩1分
料金:当日2500円(+1ドリンク別) 前売2200円(+1ドリンク別)
詳細は→こちら

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6 コメント

  1. のべさん、こんにちは。

    最終日の模様をSNSにアップされた方がいたので、見ました。
    のべさんも書いておられた通り、最終日でかなり声が苦しい場面がありましたね。

    In Spite of..は参加者全員がすごく楽しそうで、今回行かなかったことを残念に思いました。
    客の好みに合わせるのでなく、やりたい曲をやっているという満ち足りた気分のいい演奏だった気がします。

    趣向も少しづつ変えて、さすがポール、ライブの作り方が名人ですね。
    全体の感想待ってます。

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    1. marrさん コメントありがとうございます。

      今回のセットリストは
      In Spite of All the Danger
      You Won't See Me
      Love Me Do
      が一つの山場だったように思います。この部分が「想像以上に良かった」という声をよく目にします。

      全体の感想はじっくり反すうして来週には投稿したいと思います。

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  2. 甲虫のべさん初めまして。
    よくブログを見させていただいております。
    ブログを見てるうちにいつかポールのライブに行ってみたい!と思い、今回、One on Oneツアーの最終日に参加しました。
    初めて生ポールはどの曲も最高で、特にBlack BirdからのHere Todayは感激しました!
    そこで質問なのですが、今回のOne on Oneツアーはスカパー放送、またはCD、DVD(Good Evening New York Cityの様な)が放送、発売される可能性はあるのでしょうか?
    もしされないのであれば、オークションなどで出品されてるプレス盤を買おうか迷ったりするのですが、いざ買うとなると気が引けたり....。
    返信よろしくお願いします��

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    1. Shuさん

      コメントありがとうございます。

      実際のところはわからないのですが、専用の撮影機材が入ったという目撃情報が無いので放送は無いのかもしれません。
      11年ぶりだった2013年、ビートルズ以来49年ぶりだった2015年日本武道館公演に比べて話題性に乏しいのでなおさらです。
      ポール側で録音/撮影は常にしていると思いますがそれを使った公式CD/DVDの発売となると全世界的なことになってさらにハードルは上がります。
      例えば近い将来発売されるであろうポールのニューアルバムに2017年日本公演の映像を一部収録した日本限定商品などは出るかもしれません。

      不確かなことばかり申し上げて申し訳ありません。
      待てるようでしたらもう1~2か月待つのもよろしいかと思います。

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  3. ステージについて質問失礼します。

    今回の公演では、Out Thereの公演の時と比べ、ステージが奥まった位置にあったような気がするのですが、なぜでしょうか?

    私はB45ブロックでコンサートを観たのですが、ステージ後方のスクリーンは見えない位置でした。

    お気づきになられた方はいらっしゃるでしょうか?

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    1. 問題提起ありがとうございます。

      今ツアーからステージ上空に横長の大きなスクリーンがが設置されましたので、それが視界を遮っているのかもしれません。またはそのスクリーンの設置に関連してご指摘の通り後方のスクリーンの位置が変わっている可能性もあります。

      申し訳ありません、確かなことはわかりません。
      興味深い視点ですので他のサイトでもご質問いただくことを
      お勧めします。

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