レポート:舞台『BACKBEAT(バックビート)』2019年5月31日 東京芸術劇場 ビートルズコピーバンド視点での感想

※2023年4月~5月に再演されることが決定しました(2022年12月8日ジョン・レノンの命日に発表)。本記事は2019年初演時のものです。

※『BACKBEAT』関連記事まとめはこちら→https://blog.kouchu.info/search/label/BACKBEAT
ビートルズ鑑賞ガイド「音源」「映像・書籍」「演奏」各編あります。

メジャーデビュー前のビートルズを描いた映画『BACKBEAT』の舞台版を見てきました。以下、ネタバレ満載です。

舞台版『BACKBEAT』は原作となる映画版の監督イアン・ソフトリー自身が手掛けた作品で、今回初めて日本語化されました。

『BACKBEAT(バックビート)』
https://www.backbeat-stage.jp/ ※2019年版公式サイト(廃止)
https://www.backbeat-stage.com/ ※2023年版公式サイト
戸塚祥太、加藤和樹らが“令和のビートルズ”に 舞台『BACKBEAT』開幕 初日公演を前に意気込み(exciteニュース)
戸塚祥太、辰巳雄大、加藤和樹ら“ビートルズ”仲が深まり和気あいあい!舞台「BACKBEAT」へ「ロックで駆け抜けたい」と意気込みも (Edge Line)
戸塚祥太×加藤和樹が“5人目のビートルズ”×ジョン・レノンの友情を描く、舞台『BACKBEAT』(exciteニュース)
舞台”BACKBEAT”(戸塚 祥太&加藤 和樹主演)レポート〜ビートルズファンこそ見て欲しい理由とは?(ザ・ビートルズ・クラブ)

<公演日程>

2019年5月25日(土)~6月9日(日) 東京都 東京芸術劇場 プレイハウス
2019年6月12日(水)~16日(日) 兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2019年6月19日(水) 愛知県 刈谷市総合文化センター 大ホール
2019年6月22日(土)・23日(日) 神奈川県 やまと芸術文化ホール メインホール
※大千秋楽はスチュアート・サトクリフの誕生日

<キャスト>

スチュアート・サトクリフ:戸塚祥太(A.B.C-Z)
ジョン・レノン:加藤和樹
ジョージ・ハリスン:辰巳雄大(ふぉ~ゆ~)
ポール・マッカートニー:JUON(FUZZY CONTROL)
ピート・ベスト:上口耕平
アストリッド・キルヒヘル:夏子 → 愛加あゆ(2023年版)
ベルト・ケンプフェルト ほか:鍛治直人
トップテンクラブMC ほか:田村良太
クラウス・フォアマン / リンゴ・スター:西川大貴
レーパーバーンの店員 ほか:工藤広夢
ブライアン・エプスタイン / トニー・シェリダン ほか:鈴木壮麻 → 東山光明(2023年版) ※兼務する役が2019年と同じかは不明
ブルーノ・コシュミダー ほか:尾藤イサオ

※2023年版はジョージ・マーティンほか役で加藤将が出演

全体的な感想。想像よりマニアック

今作はミュージカルではありませんが、ステージ上での生演奏が売りです。となれば普段からビートルズの曲を好んで演奏している身としては黙っていられません。
・・・と意気込んで行ったものの、正直僕自身いわゆる「ハンブルク時代」のビートルズには疎く『BACKBEAT』映画版も見たことが無いので、 演奏に重点を置いたレポートになります。

満員感にあふれた会場は9割方女性客に見えました。第一幕の終わりに食い気味で拍手したり、カーテンコールの2回目はスタンディングオベーションするなど統率がとれていたのでリピーターが多いのかもしれません。
舞台は戸塚祥太さん(スチュアート・サトクリフ役)による鬼気迫るパントマイムから始まります。普段からダンスで身体表現を鍛えているジャニーズ事務所のタレントを起用するのは単に人気を重視しているわけでは無いと感じました。その後ビートルズのメンバーによるダンスシーンがあったので、さらにその思いを強くしました。
そして突然ビートルズ本人の「That'll be the Day」(当時はThe Quarry Men名義)の音源が流れて驚きました。以降ビートルズ本人の音源が流れることはありません。 その他劇の冒頭では「Come On Everybody」(エディ・コクラン)「Be-Bop-A-Lula」(ジーン・ヴィンセント)などがオリジナル音源で流れました。Be-Bop-A-Lulaは劇中でも何度かセリフとして登場します。
ストーリーやセリフは原作に忠実ということなのか、かなりマニアックな内容を含んでいます。おそらく出演者本人も由来を理解していないであろう、ストーリーの進行上不要に見える言い回しや所作も多いです(例:スチュが客席に背中を向けて演奏)。実在の固有名詞が何の説明も無く次から次へと登場します(例:ロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズ リンゴ・スターが加入していたバンド)。僕もすべて気づけたか自信がありません。本作はあくまでもジョンとスチュの友情や葛藤に焦点を当てた内容ですが、ジョージの年齢詐称による強制送還、ブライアン・エプスタインとの出会い、ジョージ・マーティンの意向を受けたピートの解雇とリンゴの加入など、ビートルズ史における重要イベントはしっかり盛り込まれています。

セットリスト

以下、劇中で出演者により演奏/歌唱された曲を登場順に列挙します。
 曲名の次にメインボーカルを記しました。
★:レノン=マッカートニーの曲
■:ビートルズが演奏した音源が存在しないと思われる曲

Johnny B. Goode (日本語バージョン) ジョン ※スチュのベースと歌のみ
Johnny B. Goode ジョン
Good Golly, Miss Molly■ ジョン
Blue Moon of Kentucky■ ポール ※ジョン&スチュ不在
The Sheik of Araby ジョージ ※ジョン&スチュ不在
How Much is That Doggie in the Window■ ピート ※ジョン&スチュ不在
Twenty Flight Rock ジョン
Long Tall Sally ポール
Hound Dog■ 尾藤イサオ ※カラオケ歌唱
You've Really Got a Hold on Me ジョン ※スチュ途中で抜ける
A Taste of Honey ポール ※ギター弾き語り
Rock and Roll Music ジョン
My Bonnie トニー・シェリダン ※スチュ不参加(ポールがベース)
Ain't She Sweet ジョン ※カラオケ歌唱
Twist And Shout ジョン ※ポールのギターと歌のみ ビートルズのアレンジ力を示す演出
Money ジョン ※スチュ&ジョン途中で抜ける
Slow Down ジョン ※事前録音
Bad Boy ジョン→ジョージ→ポール ※スチュ&ジョン途中で抜ける
Love Me Tender■ スチュ
Please Please Me★ ポール ※ポールのギターと歌のみ レノン=マッカートニーによる曲作りの演出
Please Mr. Postman ジョン ※ベース途中からポール→スチュに交代 以降の曲スチュは不参加
P.S. I Love You★ ポール
Love Me Tender■ ジョン ※独唱
Twist And Shout ジョン ※この曲のみドラムがリンゴ

追記:大千秋楽公演のみカーテンコールでJohnny B. Goodeを演奏

使用/歌唱されている曲でプレイリストを作りました。→Spotify   →YouTube
それぞれ引用元は一部異なります。

生演奏の様子

舞台後方にバンドセットが設置してあり、必要に応じて前に引き出して演奏します。演奏の途中で静かになって他の場所でのシーンが盛り込まれるなどBGMとしての演出も多かったです。
ポール役のJUONさんは本作のために左利きに矯正して演奏しており、不慣れな感じはありましたが高レベルな歌や演奏の表現力でバンドを引っ張っていました。ジョン役の加藤和樹さんは「Ain't She Sweet」が最も雰囲気が出ていました。スチュ役の戸塚祥太さんは「ベースが下手」(ポールに追い出された)設定を壊すほどの安定感のある演奏でした。ピート役の上口耕平さんは歌とダンスが上手くてびっくりしました(ピート役として見ていたので)。ジョージ役の辰巳雄大さんはギター初心者にもかかわらずソロまで弾いていたのは素晴らしい集中力だと思いました。

まとめ

観ていて気になった点としてはまず楽器や衣装の時代考証の甘さです。再現性より舞台映えを意識したのだと思います。また、ビートルズのメンバーのキャラクターが一律「ハイティーンのやんちゃ坊主」で、舞台表現ということでハイテンションで声を張り上げることも相まって描き分けができていないと感じました。終盤、ジョンやポールは内面描写が増えて個性が際立っていったので序盤のキャラごちゃ混ぜ感は意図的だったのかもしれません。


とはいえ全体的には想像以上に楽しめました。企画~キャスティング~稽古~本番とこの舞台をなんとか成功させようと真摯に取り組んでいる様子が伝わってくるようでした。唯一の主要女性出演者の夏子さんはアストリッドの気高いイメージを裏切りませんでした。尾藤イサオさんは当時の雰囲気を知るだけあって説得力ある歌と演技でした。他の出演者も一人何役もこなしながら歌や演奏にも参加しており、多彩でした。リンゴ役の西川大貴さんは右手のシンバルのたたき方がリンゴっぽかったです。

ビートルズファンをニヤリとさせるマニアックさを含みながらも、演奏ありダンスあり裸ありと飽きさせません。史実がそもそも劇的ですから終盤は涙を誘います。生演奏に興味があるビートルズファンにお勧めできる舞台です。逆にこの舞台をきっかけにビートルズ曲の生演奏に興味を持つ人が増えれば良いなと思います。


コメントを投稿

0 コメント