ポール・マッカートニーの新作アルバム『The Boys Of Dungeon Lane』から先行公開された「Home To Us」は、リンゴ・スターがボーカルとドラムで参加しています。
ポールとリンゴが一緒に録音すること自体は、ビートルズ解散後も何度もありました。2023年には、ビートルズ最後の新曲として発表された「Now And Then」もありました。
今回の「Home To Us」は単なる「二人が共演している曲」ではなく、「二人が同じ出発点を、交互にリード・ヴォーカルで歌う曲」という特徴があります。
リンゴのドラムから始まった
この曲の出発点は、リンゴのドラムでした。
ポールの説明によれば、まずリンゴがスタジオでドラムを録りました。ポールはその演奏をもとに曲を作り、リンゴへ送りました。つまり「完成したポールの曲にリンゴがゲスト参加した」のではありません。リンゴのドラムが先にあり、その音から曲が立ち上がっています。
ビートルズ時代の録音でも、リンゴのドラムは曲の景色を決める土台でした。「Home To Us」でも、ポールはそのドラムを受け取り、そこに二人の故郷の記憶を乗せました。
“初デュエット”という言葉に語弊あり
報道では「ポールとリンゴの初デュエット」といった言い方もされています。
2010年のリンゴのアルバム『Y Not』の「Walk With You」でポールはベースとヴォーカルで参加しています。ポールがリンゴと歌うのは今回が初めてではありません。
ポールは「Home To Us」について、ポールの一行、リンゴの二行目、という形で二人が交互に歌う構造になったことを説明し、「こういうことは今までやったことがなかった」と語っています。
この違いは大きいです。「Walk With You」は友情を歌う曲でした。「Home To Us」は、友情の根っこにある場所を二人で歌う曲です。
歌詞は“貧しさの中の生活感”
歌詞でまず描かれるのは、かつて住んでいた場所です。そこは立派ではありません。荒れていたと言われても仕方がない場所です。庭にあったバラはしおれ、やがて塵のようになっていきます。ここには、懐かしさだけでなく、衰えや荒廃のイメージがあります。
しかし、その直後に曲は何度も「それでも自分たちの家だった」と言い直します。
歌詞の中で特に印象的なのは、丘の上の裕福な女性と、台所で皿を洗く母親の対比です。
丘の上の女性は、ブランデーを飲み、キャビアを食べ、完璧なもてなしをしています。一方で、自分の母親は台所で皿を洗い、トーストを焦がしてしまいます。
ポールの書く生活描写には、昔からこうした力があります。「Eleanor Rigby」では教会と孤独な人々を描き、「Penny Lane」では床屋、銀行員、消防士、通りの風景を細かく切り取ります。「Home To Us」でも、豪華な食卓と焦げたトーストという具体物によって、町の階層差が一瞬で見えます。
歌詞には、子どもたちが路地でボール遊びをする場面も出てきます。さらに、遊び場は整った公園ではなく、通りの真ん中です。
これは、リヴァプールの労働者階級的な生活感そのものです。
「Home To Us」は二人だけが行ける場所への案内
リンゴはこの曲について、自分たちがそこから来た場所のことだから「とてもリアル」だと説明しています。ポールも、何もないところから出発し、自分を築き上げていく話としてこの曲を語っています。
ポールは近年、「いま残っているのは自分とリンゴだけで、その記憶を共有できるのは二人しかいない」という趣旨の発言をしています。リンゴもまた、ポールを「自分にはいなかった兄弟」と語っています。
「Home To Us」というタイトルの“Us”は重いです。
世界中のファンが知っているビートルズではなく、ポールとリンゴだけが知っているビートルズ以前の場所。ジョンとジョージも含めた四人の物語ではなく、今ここに残った二人が共有している場所。二人だけが、まだ一緒に行くことのできる場所です。
なお、この曲にはChrissie HyndeとSharleen Spiteriがバック・ヴォーカルで参加しています。
ポールとリンゴの二人だけで歌えば、曲はもっと私的な回想になったはずです。しかし女性コーラスが加わることで、曲は少し外へ開きます。
ポールとリンゴのレコーディング共演履歴
1970年代にはリンゴのソロ作品にポールが参加し、1980年代にはポールの作品でリンゴがドラムを叩きました。1990年代には『Anthology』期の再結成録音があり、その直後にポールの『Flaming Pie』とリンゴの『Vertical Man』で再び合流しました。2010年代以降も、リンゴの作品にポールがたびたび参加しています。
以下は、確認できる主な録音共演の整理です。
ビートルズ期と関連プロジェクト
| 年 | 作品 | 共演内容 |
|---|---|---|
| 1963〜1970 | ビートルズのコア・スタジオ・アルバム群 | ポールは主にベース、ヴォーカル等。リンゴは主にドラム、ヴォーカル。二人の録音共演の本体です [cite: 21, 29]。 |
| 1962〜1970 | 『Past Masters』収録の録音群 | アルバム外の公式録音でも、ポールとリンゴは多数共演しています [cite: 21, 29]。 |
| 1969 | メリー・ホプキン「Que Sera, Sera」 | ポールがプロデュース、リンゴがドラムで参加しています [cite: 21, 30]。 |
| 1995 | The Beatles「Free As A Bird」 | ポール、ジョージ、リンゴによる再結成録音です [cite: 21]。 |
| 1996 | The Beatles「Real Love」 | 1995年のセッション成果物。役割は「Free As A Bird」と同系統です [cite: 21]。 |
| 2023 | The Beatles「Now And Then」 | ジョンのデモにポールとリンゴが2022年に新たなパートを録音して完成しました [cite: 21, 39]。 |
ビートルズ解散後の個別録音共演
| 年 | 作品 | 共演内容 |
|---|---|---|
| 1973 | Ringo「Six O’Clock」 | ポールが共作、演奏、バック・ヴォーカルで参加。リンゴがリード・ヴォーカルを担当。 |
| 1981 | Ringo「Attention」 | ポールが作曲、プロデュース、演奏で参加。 |
| 1981 | Ringo「Private Property」 | ポールが作曲、プロデュース、演奏で参加。 |
| 1982 | Paul McCartney「Take It Away」 | ポールの作品にリンゴがドラムで参加。 |
| 1982 | Paul McCartney「Wanderlust」 | ポールの作品にリンゴがドラムで参加。 |
| 1983 | Paul McCartney「So Bad」 | ポールの作品にリンゴがドラムで参加。 |
| 1984 | Paul McCartney「Wanderlust」 (Broad Street版) | サウンドトラック版でリンゴがドラム参加。 |
| 1984 | Paul McCartney「Not Such A Bad Boy」 | ポールがベース/ヴォーカル、リンゴがドラムで参加。 |
| 1984 | Paul McCartney「No Values」 | ポールがベース/ヴォーカル、リンゴがドラムで参加。 |
| 1997 | Paul McCartney「Really Love You」 | ポールとリンゴの共作・共演による即興ジャム録音。 |
| 1997 | Paul McCartney「Beautiful Night」 | ポールの作品にリンゴがドラムで参加。 |
| 1998 | Ringo「I Was Walkin’」 | ポールがバック・ヴォーカルで参加。 |
| 1998 | Ringo「La De Da」 | ポールがベース、バック・ヴォーカルで参加。 |
| 1998 | Ringo「What in the... World」 | ポールがベース、バック・ヴォーカルで参加。 |
| 2010 | Ringo「Peace Dream」 | ポールがベースで参加。 |
| 2010 | Ringo「Walk With You」 | ポールがベース、ヴォーカルで参加。 |
| 2017 | Ringo「Show Me The Way」 | ポールがベースで参加。 |
| 2017 | Ringo「We’re On The Road Again」 | ポールがベース、バック・ヴォーカル等で参加。 |
| 2019 | Ringo「Grow Old With Me」 | ポールがベースで参加。 |
| 2023 | Dolly Parton「Let It Be」 | ポールとリンゴが客演参加。 |
| 2023 | Ringo「Feeling The Sunlight」 | ポールが作曲、多種楽器演奏、プロデュース等で参加。 |
| 2026 | Paul McCartney「Home To Us」 | ポールとリンゴが交互にリード・ヴォーカルを担当。 |
補足
なお、ポールとリンゴの共演として語られることがあるものの、クレジットの確定度に注意が必要なものもあります。
- Ringo「You’re Sixteen」:ポールのカズー参加説があります。
- Paul McCartney「Ballroom Dancing」『Give My Regards To Broad Street』版:リンゴ参加の可能性があります。
- 「Angel In Disguise」:1990年代初頭の未発表共作として知られますが、正式発表曲ではありません。
「Home To Us」の個人的感想
- 居酒屋で肩を組んで校歌を歌っているような印象
- ポールとリンゴにもっとハモってほしかった
- ポールとリンゴで歌うパートを変えてほしかった(今回は同じメロディを交互に歌う)
- Cメロのランニングベースが気持ちいい
- リンゴはドラムを楽しんでいるようである
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