レビュー:『ザ・ビートルズ:Get Back』Part 2 マニアほど楽しめる

 11月26日からディズニープラスで配信開始された 『ザ・ビートルズ:Get Back』の第2話「Part 2」を見たのでビートルズ ゲットバック 感想を完全ネタバレでまとめます。Part 1(感想は→こちら)はジョージ・ハリスンの脱退宣言で終わっています。

ピーター・ジャクソン監督の演出 補足

Part 1の感想で監督の演出意図を考察しましたが、一点追加があります。どうやら映像に効果音としての環境音を追加しているようです。物を置いた音など、映像から当然聴こえてくるであろう音です。これも現場に居合わせたかのような「体験型エンターテインメント」ということでしょう。

未だに演出意図がわからないのが、時折セリフに字幕が強制的に(再生時の設定とは無関係に)表示されることです。聴き取りにくいところにつけている場合はありそうですが、そうでも無い所にもついています。

リンゴ・スターの活躍とポールの傷心

Part 2はリンゴ・スターから始まります。さすが俳優として活躍するだけあって、たたずまいが絵になります。この後もジョージ復帰まではかなり発言機会があります。Part 1で影が薄かったのはPart 2でリンゴを強調するための意図的な演出かもしれません。

遅れてポール・マッカートニーが登場しますが、憔悴しきっています。ジョン・レノンとオノ・ヨーコに対する欠席裁判が始まりますが、書籍版『ザ・ビートルズ:Get Back』の同シーンよりはソフトな印象です。今後50年にわたって「ビートルズ解散はヨーコのせい」と言われる可能性をポールが予言しているのが驚きです。

ビートルズ解散

スタッフと今後のプロジェクトについて話し合う中、冗談半分でポールが口にした「ビートルズ解散」という言葉に自分自身で衝撃を受けて涙目になってしまうのが沈痛でした。「なんでこんなことになるんだ…ビートルズのためにがんばっているのに」と思っているように見えました。

リンゴは大人のたしなみとして何ごとにも動じないことを普段から心掛けている印象ですが、さすがに「ビートルズ解散」には目を見開いて言葉を失っている様子が滲み出ていました。

さらに追い打ちをかけるようにジョージがリバプールに行っている(いわゆる「実家に帰らせていただきます」ということ?)ことを聞いてポールはしばらく呆然として、スタッフの声も耳に入らないようでした。

やさしいリンゴ

翌日、ポツンとピアノに座るポールが音楽音痴そうなスタッフに音楽理論を語っているのは、疲れた頭を休めるために素人の話し相手が欲しかったのかなと思います。そこに笑顔で現れたリンゴはポールと連弾して盛り上げます。その後も撮影用カメラを奪っておどけてみたりと場を和ませ続けました。

このようなリンゴにこれまでも何度も救われてきたのでしょう。ポールもそんなリンゴとふざけながらスタジオの鎖にぶら下がって気をまぎらしてるようです。

ジョンとポール二人きりの会談?その後のジョージの復帰

ジョージ脱退についてジョンとポールがランチ中に二人きりで話し合ったという隠し撮り音声が流れました。 ここまで深刻なものに限らず二人が私的に会話している様子を文字でも見た記憶がほとんどないので前のめりになりますが、書籍版『ザ・ビートルズ:Get Back』ではこの場にリンゴ、ヨーコ、リンダがいたことになっています。二人だけかどうかでかなり印象が変わります。

いずれにせよ、この場でジョンが苦しい胸のうちを語ったのは事実です。子分だったはずのポールに対して劣等感や畏怖の念を語るのは屈辱的だったと思います。ジョンがジョージの脱退&復帰後に人が変わったように意欲的になるのはてっきり気分の問題でお薬の影響があるのかと想像していましたが、このポールとの会談とその後のビートルズ全員の会議で自分の気持ちと向き合って自身の役割に覚悟を持った結果なのだと認識を新たにしました。

ビートルズサミットの様子は?

ジョージ復帰が決まったビートルズのこの会議の様子は知る由もありませんが、ジョンだけでなくジョージも翌週からつき物が落ちたように前向きなので会議の場はみんなで大声で罵り合ったり涙を流したりしてデトックスしたのかなあと妄想してしまいます。

一方、順調そうに見えるのはみんな無理していただけ、という考え方もあります。ジョンやジョージは不自然に明るい気もしますし、ポールは何とか我を抑えようと苦労しているようにも見えます。無理がたたって半年後にジョンの脱退宣言になったのかもしれません。

マジック・アレックス

ピーター・ジャクソン監督はマジック・アレックスをとことんネタ枠として扱っていました。誰かマジック・アレックス製のリバーシブルギター&ベースのレプリカ作ってくれないでしょうか??マジック・アレックス(故人)については過去の投稿もご覧ください→こちら ジョンが取り巻きに選ぶ人物像に対する理解が深まると思います。

ビリー・プレストン

ビリー・プレストンがセッションに参加したのはジョージの進言であり、なんなら復帰の条件だったという説をよく目にしてきましたが、本作ではたまたま立ち寄っただけだったと主張しています。確かに、映像を見るとピアニストを加えたがったのはいつもジョンで、Part 1からその伏線がありました。ジョージ復帰以降、ビリー・プレストン合流前からすでにセッションの雰囲気は良かったので、その点からもジョージ主導説は説得力を失うと感じました。

ゲストが現場に加わることでいいところ見せようと気合が入るでしょうし、サウンド面でもビリー・プレストンが参加したことでようやく完成したのでこれが偶然だとしたらやはりビートルズは神がかっていると言わざるを得ません。

なぜヘフナーバイオリンベース?

ポールがゲット・バック・セッションでヘフナーのバイオリンベースを使用しているのは原点回帰(メンバー向けアピール含む)やライブ復帰に向けてパブリックイメージを尊重しているなどの説があり真相は不明ですが、「(リッケンバッカーより)軽くて好き。換えない」というポールの発言がありました。ライブは立って演奏するはずなので意識していそうです。

録音エンジニアとしてはリッケンバッカーの方が音が良いという認識のようで、ポールも一度はリッケンバッカーに換えてみましたが、弦がナット(弦の上端側の支点)から外れてしまい使い物にならなそうでした。このときの弦は黒かったので、この時期はヘフナー同様リッケンバッカーベースにもブラックナイロン弦を使用していたのかもしれません。つまりは単にリッケンバッカーのナットの溝が通常より太めのブラックナイロン弦にとっては浅かっただけかも?

近々調整に出すとポールが言っていましたが、その時サイケデリックなペイントがはがされて木の色そのままの仕上げになって帰ってくることになります。その状態でビートルズ解散後愛用します。

マニアほど楽しめる

前述のヘフナーとリッケンバッカーの件は僕が興味がある分野なのでじっくり味わえましたが、このPart 2についてはマニアほど深読みできるシーンが満載と思われます。僕も気づいていないような驚愕の事実が明らかになっているはずなので、どなたかに解説いただきたいところです。

例えば「For You Blue」のピアノの音が新聞紙を弦に触れさせることで作っていた、と言うシーンがありましたがこれは既知なのでしょうか。あまりに基礎知識が足りないとPart 2の演奏部分は退屈に見えると思います。ヘフナーとリッケンバッカーの件もストーリーには無関係で明らかにマニア向けです。

Part 1も含め、会話中に過去のエピソードが内輪ネタとして頻繁に出してくるので(とくにジョンとポール)聞き逃しているものが多くありそうです。マニアは一緒になってニヤリとしてビートルズの仲間になったような気分になれるでしょう。

インド映像

Part 2の終盤でポールが前年のインド修業の記録映像を見たとメンバーに語るシーンで、実際の映像が挿入されています。ここもマニアにとっては驚きの連続でしょう。ピーター・ジャクソン監督はポールが記録映像のことを細かく振り返っていることを知ってすぐこの演出を思いついたと思いますが、実現させた熱意に敬意を表します。

それにしてもインドに行ったのはゲット・バック・セッションからまだ1年以内のことで、つくづく当時の彼らの生きるペースの速さに目が回ります。その間ジョンとポールはパートナーが変わっています。

ルーフトップ

最終的にライブをルーフトップで行うことについては当時の総監督マイケル・リンジー=ホッグと音響監督グリン・ジョンズがポールに進言したとしています。これはグリン・ジョンズの証言とも一致します。グリン・ジョンズについては過去の投稿もご覧ください→こちら 今作が彼の証言の答え合わせになっていることがわかります。

第3話 Part 3についての感想は→こちら

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2 コメント

  1. いつも楽しく読ませて頂いています。
    『「For You Blue」のピアノの音が新聞紙を弦に触れさせることで作っていた、と言うシーンがありましたがこれは既知なのでしょうか』についてですが、私は何となく知っていました。
    初めて知ったのがいつか分からないので少し調べたところ、サウンド&レコーディングマガジンの2003年12月号の、当時発売されたばかりのLet It Be Naked の特集記事で言及されていました。
    リミックスを担当したポール・ヒックスへのインタビューで、For You Blueについて「ポールが紙を挟んだ変なピアノサウンドを出しているのに気がついたよ」(新聞紙とは記されていませんが)と答えています。
    ”オフィシャルインタビュー”と書いて有るので、この雑誌が単独で行ったものではなく、他の雑誌にも掲載されたものかと思います。
    このインタビューで初めて明らかにされた事実ではない可能性も高いですが、少なくともこの時には既に知っている人がいたと思われます。
    しかし、実際に新聞紙を挟むシーンを見れるとは思いませんでした(笑)。

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    1. 矢沢さんコメントありがとうございます。

      For You Blueのピアノの音については既知でしたか。リミックスの際にテープを聞いているとそのような会話があったのですかね。

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