デビューシングル「Love Me Do」録音50周年その日の謎

今日からちょうど50年前の1962年9月4日、ビートルズのデビューシングル「Love Me Do」がレコーディングされました、この日の演奏は1962年10月5日に発売されることになるのですが、その後発売されたデビューアルバムや追加生産されたシングルにはリンゴ・スターではなく、セッションドラマーのアンディ・ホワイトがドラムを担当したバージョンが使用されています。

現在は「Past Masters」でリンゴバージョンも聴くことができます。両バージョンを聴き比べても両者のドラムにさほど差があるようには思えません。そもそもあまり差がつくような難しいパターンでは無いと思います。とはいえ書物によればポールはこの曲でのリンゴの演奏に不満を持っていたそうですし、実際現在リリースされているリンゴバージョンはイントロのリズムを後から修正したものらしいので実はリンゴの演奏は不安定だったのかもしれません。
リンゴはこの時が初めてのレコーディングだったという説もあるので本人はナーバスになっていたとしてもおかしくありません。それが他のメンバーにも伝播したのか、確かに皆自信なさげに聴こえます。同年6月にピート・ベストのドラムで録音したバージョンの方が余裕があったとさえ感じます。結局この1週間後の1962年9月11日にアンディ・ホワイトのドラムで改めて録音されています。

となれば、何故リンゴバージョンがそのままリリースされ、後からアンディ・ホワイトバージョンに差し替えられたのか謎です。デビュー記念としてのメンバーへの温情措置なのでしょうか。アンディ・ホワイトとの契約も関連しているのかもしれません(セッションミュージシャンなので印税は無かったようですが)。いずれにせよ、リンゴバージョンはベースのチューニングがズレているなど他にも悪いところがあるので差し替えて良かったと思います。

9月4日にはもう一つ謎があります。今年になって日本でも放送されたビートルズの元プロデューサー ジョージ・マーティンのドキュメンタリー(以前の投稿を参照)でジョージ・マーティンは以下のように語っています(僕が意訳したもの)。
ドラマーをピート・ベストからリンゴ・スターに自主的に変更したことをブライアン・エプスタインが自分(マーティン)に伝えなかったのでセッションドラマーのアンディ・ホワイトを雇ってしまった。
これを聞くとリンゴとアンディ・ホワイトがスタジオで鉢合わせた印象があります。となれば9月4日もアンディ・ホワイトは居たのでは無いでしょうか?そう考えたのは同日にシングル曲候補としてジョージ・マーティンからあてがわれた「How Do You Do It」を録音した事実があるからです。この曲は「Anthology 1」に収録されています。これを聴くと非常にまとまりのある演奏でその後に録音された「Love Me Do」とは随分印象が違います。ドラムもテクニックが多彩かつ軽快で、とてもその数時間後酷評される人と同じ人が叩いているとは思えません。また、9月11日にアンディ・ホワイトのドラムで録音されたPlease Please Meの演奏に似ているところがあります。
つまり現在残っている音源の「How Do You Do It」はアンディ・ホワイトがドラムを叩いていると考えています。当時32歳の経験豊富なセッションドラマーがどっしりとリズムを支えてその上で若者がのびのびと演奏するという構図が想像されます。録音を終えたあと、4人がジョージ・マーティンに直訴して「Love Me Do」に取り組んだ、でもうまくいかなかったので1週間後やりなおした、という推理です。裏付け調査も行っていない単なる直感ですが。

「How Do You Do It」を初めて聞いたときからどうもドラムの印象が他のビートルズの曲とは違うと思っていました。リンゴが演奏していたとしても他の人の演奏を真似していたのではないでしょうか。実際、リンゴはアンディ・ホワイトのPlease Please Meの演奏を後にそのままなぞってレコーディングしています。

 

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