ビートルズ『サージェント・ペパーズ』発売50周年記念トーク・イベント《シリーズ全6回》
川原さんは音楽プロデューサー・作曲家として1970年代からご活躍で近年はビートルズ関連の書籍にも多く参画しています。杉さんと松尾さんがBOXとして2013年The Fab Four日本公演に出演した際、甲虫楽団も前座で出演したので楽屋でお会いしたことがあります(当時のレポートは→こちら)。
この4人でビートルズをネタに「定例会」と称した飲み会を定期的に開催しており、今回は3回目の「公開定例会」とのことです。本来の定例会よりはセーブしていたようですが、お酒を飲みながらトークを展開していました。観客もワンドリンク付きなのでみんなで飲み会のような雰囲気でした。
全体として司会の藤本さんの進行のもと、川原さんが気の向くまま脱線し、杉さんが会の主旨に沿うよう的確に軌道修正を行い、松尾さんが場を和ませるという構図でした。ビートルズさながらのよいバランスだと思いました。川原さんのご経験に裏打ちされたお話の内容に非常に感銘を受けたので、今回は川原さんのご発言をまとめます。意訳しています。
Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Bandならびに今回の50周年リミックス
- お客さんと一緒になって楽しむことを拒否したようなアルバム。レコード会社もマネジメントもこんな大胆なことをよく許した。
- ポール・マッカートニーはビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」に感動した。ポールはマーケティングが優秀だから「売れそうなペット・サウンズを作ればよい」と考えたのではないか。それが「Revolver」や「Sgt.Pepper's~」になった。
- 普段二代目のことは評価しないがジャイルズ・マーティンは腕前がちゃんとある。ポールの「NEW」も良かった。今回はデジタル技術を使ってアナログモノ盤にあったラウド感も上手に出している。ただし、ヘッドフォン向けのミックスだと感じた。エッジが効いてハイもローも出ているがのっぺりしている印象。
- 今回ベースやドラムのリズムのばらつきを調整しているのではないか?現代の人はクリックに乗った音楽を好むのでその志向に合わせてきたと思う。グルーブが今風になっている。ベースはこんなにタイトでは無かったはず。
- Penny LaneとStrawberry Fields Foreverをアルバムに入れて2曲抜くとしたら、Getting Better:ロックバンドっぽくて良いがサイケデリックのアルバムに合わない、Good Morning, Good Morning:名作として残るものでは無い
- インナーグルーブの元ネタはシュトックハウゼンの「少年の歌」
アルバムジャケットにも登場しているシュトックハウゼン |
Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Bandが発売されるまで
- わからない音楽は全部「うるさい」と感じるものだ。それがクラシック音楽だったとしても。自分にとってビートルズも最初はそうだった。
- 「中二時代」「中二コース」などの雑誌にビートルズの写真が載っていたがジョン・レノン以外の顔は見分けがつかなかった
- 学校の試験で一等賞を取ったら好きなアルバムを買ってくれるという約束でアルバムMEET THE BEATLESを親にねだったが反対された(代わりに別のアルバムを買ってもらった)
- 元々映画が好きだったので映画「A Hard Day's Night」が印象に残っている。映画冒頭に出てくる駅に実際に行くと全体の雰囲気は昔から変わっておらず今だに胸がいっぱいになる。
- 日本公演の熱狂の反動で日本でのアイドルとしてのビートルズは終わった。入れ替わりでモンキーズが流行った。
- スパイダースの面々に「Revolver」を聴かせて1曲ずつ意見を聞いたらかまやつひろしはTomorrow Never Knowsについて「ちょっと遊び過ぎだな」とネガティブな意見だった。
- 日本のレコード会社は親会社が電機会社なのでステレオ機器の普及のために日本のレコード業界は早くからステレオ重視で世界的に見れば異質。ビートルズ側はステレオ盤なんて眼中になかったのに、日本人は無理にステレオ盤のビートルズを聞かされていた。
ビートルズを分析
- ビートルズのアルバムの曲の並び順が上手だなと思って調べたら前曲とのキーの変化を意識しているようだった。同じキーの曲が続くとダレる。曲の前後でキーの変化を意識するのはクラシック界では定番の手法らしい。ジョージ・マーティンのおかげか?
- ポールは「サイケデリック」がなんたるかわかっていない。形から入ろうとする。「アバンギャルドみたいなことをやろう」なんて言ったりする。やったことが結果としてアバンギャルドになるだけだ。
- I Saw Her Standing Thereの元ネタは「The Saints」。同じ作曲する者としてその流れがわかる。
その他ビートルズ以外の話題としては以下のようなものがありました。
ザ・ビーチ・ボーイズ
ペット・サウンズ
イエロー・サブマリン音頭
大瀧詠一
ピンク・レディ
ペッパー警部=サージェント・ペッパー
会の最後は「Penny LaneとStrawberry Fields Foreverを『Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band』に入れるならどの曲を抜くか」「『The Beatles』(ホワイトアルバム)を1枚にまとめるとしたらどうなるか」を登壇者で議論しました。客席にも同作の収録曲一覧が配布されました。
面白い企画だったので僕も便乗して選んでみます。↓
『Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band』改
- Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
- With A Little Help From My Friends
- Lucy In The Sky With Diamonds
- Penny Lane
- Being For The Benefit Of Mr. Kite!
- Within You Without You
- Strawberry Fields Forever
- Fixing A Hole
- She's Leaving Home
- Lovely Rita
- Good Morning Good Morning
- Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)
- A Day In The Life
『The Beatles』改
- Back In The U.S.S.R.
- Dear Prudence
- Glass Onion
- Ob-La-Di, Ob-La-Da
- While My Guitar Gently Weeps
- Happiness Is A Warm Gun
- Martha My Dear
- Sexy Sadie
- Blackbird
- Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey
- Savoy Truffle
- Julia
- Helter Skelter
- Good Night
1966年にツアー活動を止め、様々な特徴を持った新しいグループが次々と売れていくなか、自分の立ち位置に悩んだビートルズが放った起死回生の一発が『Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band』であった、それは幸運にも時代にうまくはまって成功を収めた、というのが会を通じての共通見解だと感じました。
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