ビートルズを語る上で欠かせない存在、マネージャーのブライアン・エプスタイン。彼の半生を描いた伝記映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』(原題 Midas Man)が、2025年9月26日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開されます。上映時間は112分、ビートルズ関連著書でおなじみの藤本国彦さんが字幕監修を務めています。
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ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男(配給:ロングライド)
1961年、自身が経営するリヴァプールのレコード店の客からビートルズを知り、その才能をいち早く見抜いたブライアン。彼は英国北部の無名バンドを、わずか数年で世界のトップに押し上げました。その一方で、同性愛者としての苦悩、薬物依存や心の孤独といった影も抱えていました。
いよいよ公開されたブライアン・エプスタインの伝記映画を観てきました。ビートルズを陰で支えた男の半生を正面から描く作品は、これまでにもありそうでなかったので、公開を心待ちにしていた方も多いのではないでしょうか。以下、伝記物なのでストーリーのネタバレはあまり気にしなくていいかもしれませんが、演出面のネタバレはあります。
良かったところ
ビートルズファンがビートルズファンのために丁寧に作っている印象です。ビートルズが売れるまでのエピソードに詳しい人ほど細部の作り込みに驚くことでしょう。マニアックな登場人物がサラッと出て初心者置いてけぼりのセリフを撒き散らします。アラン・ウィリアムズ、フリーダ・ケリー、マル・エヴァンス、シラ・ブラック(結構重要な役)、…。
そして、それぞれのキャスティングが素晴らしいです。ジョージ・マーティンやビートルズのメンバーも含め見た目、服装、雰囲気、喋り方、などとても大衆のイメージに忠実でした。何人かの身長には違和感ありあましたが…。
もっともイメージと異なっていたのが主人公のブライアンだったのは皮肉です。もっと神経質で挙動不審な人だと思っています。これは物語の主人公としてストーリーを引っ張っていくために仕方ない部分もあるのでしょう。実際、ストーリーテラーとしてスクリーンの向こう側に話しかけてくる演出が多くあります。
とはいえ主演の演技は間違いなく光っていました。ブライアンが抱えていた孤独や葛藤を、表情やしぐさの細部にまで宿していて、彼が単なる「敏腕マネージャー」ではなく、複雑で人間的な存在だったことがよく伝わってきます。とくに初めてビートルズのステージを目の当たりにしたシーンにはブライアンの衝撃が伝わってきて感動の涙を誘います。
映画全体のテンポも心地よく、上映時間も比較的コンパクトで、観やすい作品になっていました。舞台となる1960年代の空気感も丁寧に再現されていて、衣装やインテリア、街の風景を眺めるだけでも楽しめました。ビートルズの楽器もしっかり考証されています。ビートルズの青春期を覆う時代のきらめきが、スクリーンを通してしっかりと感じられたと思います。
気になったところ
一方で、いくつか物足りなさも感じました。成功と挫折、苦悩と再生といった流れは分かりやすいのですが、もう一歩踏み込んでほしい気持ちが残りました。
彼が本当に何を求めていたのか、どうしてそこまでビートルズに心血を注いだのか。終盤の描き方が少々駆け足に感じました。物語のクライマックスの設定とそこからの収束に制作者側が困っている様子があります。ブライアンの最期に何が起きたのか不明な部分も多いのでしかたなかったのでしょう。映画としては幸せな雰囲気で終わっており、それはそれでよかったと思っています。
ビートルズとの関係の描き方も薄かった感があります。ビートルズとブライアンの信頼関係はどうやって育まれたのか、ブライアンがビートルズにどのような影響を与えたのかをもっと丁寧に描いてもよかった。映画全編にわたり想像より同性愛の描写に時間を割いていましたが、ジョン・レノンとの文脈で描かれることはありませんでした。
ビートルズのマネージャーとしてのブライアンの一つのピークだったと思われる1965年のシェイ・スタジアム公演が描かれなかったのは不思議です。映像が再現できなかったのでしょうけど。ブライアンがビートルズプロジェクトの中で居場所を失ったのはビートルズがツアーを止めたことが大きかったと思いますが、その部分の描き方が足りないと感じました。
そして、もはやビートルズ映画定番の問題ですが作中にビートルズのオリジナル楽曲が使えないことが足枷になっています。曲名が3曲登場しただけです。All You Need Is Loveが使えない代わりにフランス国歌を流すのは面白かったですが。演奏シーンは初期のカバー曲でなんとか構成していますが、音も当て振りも今ひとつなので、一切演奏シーンが無い演出にしてもよかったと思います。キャヴァーンでの初体験シーンでは無音にして想像力をかき立てるなど。
前述の通り、ブライアンの独白のシーンが結構あるので舞台化してビートルズコピーバンドの演奏とセットにすると面白いと思いました。
まとめ
本作は、ブライアン・エプスタインという人物に光を当て、彼を愛情深く描こうとした誠実な試みだと思います。演技や雰囲気の再現度は大きな見どころで、観やすさもあり、ビートルズファンなら一度は劇場で体験しておきたい作品です。
甲虫楽団からお知らせ
タイトル:やっちゃえ甲虫〜リリース60周年記念『Help!』『Rubber Soul』全曲通しライブ
日時:2025年10月18日(土)11:15開場 12:00開演 15:00終演予定
場所:Live in Buddy(東京・練馬区)西武池袋線 江古田駅 徒歩1分
チャージ:3000円(1ドリンク込)
全席自由
ご予約は以下フォームより送信お願いいたします。
「やっちゃえ甲虫〜リリース60周年記念『Help!』『Rubber Soul』全曲通しライブ」ご予約フォーム
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