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ポール・マッカートニー日本武道館公演レポートついに最終回です。終わらせるのが名残惜しかったのですが、当日から2か月経つのでいい加減終わりにします。ショー終盤となるとポールもテンションが上がって饒舌になり英語のMCが聴きとりきれなくなってきました。
ポール再登場
いつも以上にすぐ再登場したポール。ドーム公演ならDay Tripperのはず。ビートルズ日本武道館公演でも演奏された曲なので異常に盛り上がることは想像に難くない。ところがポールは一人でエピフォン・テキサンを抱えている。ドーム公演では2つあるアンコールのうち1つ目が飛ばされたことに気付いた。
「オー、トウキョー、大したもんだ。ありがとう。何て夜だ!」
演奏を始めようと身構えたポールだったが、歓声がなりやまないので「仕方ないなあ」という感じではにかんでコール&レスポンスをこぶしを握りしめながら始めた。
「やってみようか」「みんなイエーって言え~!」「みんなオッケーって言え~!」「これはどうだオーラーイ」「ブドーカン」「(メロディで)イエー、イエー、イエー、イエー、イエー」×3「ウォウ」×2「ブ・ド・カン」×6(だんだん速く)「オッケー」
間髪を入れずギターをつま弾くポール。
Yesterday
歓声が落ち着くまで長めにイントロを弾いてから歌いだした。感傷的になり過ぎず淡々と歌っている印象。この曲ほど本人が歌っているのを生で見ることに意味がある曲は無いと感じた。歌い終わり満足そうに一礼するとギターを担いで悠然とステージ脇に去っていこうとするポール。
当然そこにはジョン・ハメルがヘフナーベースを持って待ち構えている。「もう1曲やりなよ。そうでしょみなさん!?」と観客にアピール。ポールは「え~本当にやるの?」と手を広げて困った様子を見せるも拍手で賛意を表現する観客に負けてベースを手に取る。ここまでがお約束。「彼(ジョン・ハメル)が他の曲をやれってさ。どう思う?」「モット?」「モットキキタイ?」「オッケー」「今夜武道館にいるみんなに送るよ」
Birthday ※日本公演本編では初披露
ここにきてまたサプライズ選曲。前日の東京ドーム公演サウンドチェックで演奏していたし、テレビ出演などの小規模なステージではよく選曲されるので個人的にはさほど驚かなかった。パーティーソングという意味ではDance Tonightと対をなしている。もしかしたら数日後生まれることになるイギリスのシャーロット王女を意識していたのかもしれない。あまりのシャウトの調子の良さに口パクを疑った人もいるようだが、この類のシャウトは今のポールにとって形になりやすいし、他のメンバーが他の曲より大きめに重ねて歌って補っているのだろう。差し替えられたHelter Skeleterより楽なのだと思う。観客もHelter Skelterよりは手拍子で参加しやすく、一体感はこちらの方が勝る。床のスクリーンには液体や球体が跳ね返る映像。これはレアだろう。
「サンキュー、今日が日本での最後の夜だ。」「僕たちは素敵な時間を過ごしたよ。この国の人々はとても素晴らしいし、観衆も最高だった。」「モウ カエル ジカンデス」
この一言にこれまでポールの日本公演で聞いたことが無いくらいの切実な大ブーイング。ポールも気圧されていたように見えた。少しキレてたかも? 「イエ~」と叫んでバッサリ会場の空気を切り捨てた。
「君たちの反応は素敵だった。素晴らしい時間を過ごさせてくれて本当にありがとう。」「最後の曲の前にショーを支えてくれたスタッフにお礼が言いたい。音響、照明、機材、ピアノ、ドラム、ギター、アンプ、運搬、などなど・・・地球上で最高のクルーだ!」「そしてありがとう我がファンタスティックなバンド!」「何より美しい日本の君たち!ありがとう」「そこの君、そこの君、・・・」
「イエー」(イエー)「(笑って)もう充分だよ」
ピアノを弾き出した。
Golden Slumbers / Carry That Weight / The End
フリフラが白く光る。今回の日本ツアー最後の曲となるこのメドレー。ここまでにすべて出し尽くしたのかSleep little darlingの一節の高いところなどは声が出きっていなかった。The Endに移行すると観客のフリフラは個々に様々な色にめまぐるしく光はじめた。これはちょっとやり過ぎだと思った。
ポールもノっているのか3人によるギター合戦はいつもより長めだった。ドラムのエイブの方に振り返ったポールが人差し指と中指で「あと2回」と合図を出している様子が見えた。会場中の誰もが終わって欲しくないと願う中、ピアノの音だけが開場に響き、ポールの、ビートルズの、永遠のテーマと言える一節「And in the end, the love you take is equal to the love you make」が歌われ、曲が終わってしまった。
「(フリフラを見て?)とても綺麗だ、伝説的な夜になったよ。ありがとう。ブドーカン。マタアイマショウ、トウキョウ。マタネ。また会いましょう!」
いつにも増して力強い「また会いましょう(We'll see you next time)」を言い残して、ポールは日の丸をイメージした赤と白の紙吹雪に紛れて去ってしまった。
いつもならこれで完全に終演だが、今日はまだ何か特別なことが起きるかもしれないと皆祈るような気持ちでアンコールを要求し続けた。予定調和で固められたポールのコンサートに慣れた人にとってこれは貴重な体験だろう。だが、無情にも終演のアナウンスが流れ会場の照明がついた。
これにてポール・マッカートニー日本武道館公演、終了。
終演後
21時55分。武道館は22時までしか公演ができないと耳にしたので、間に合わせるように短縮セットリストにしたのかもしれないと思ったが、これはこれで良いと感じた。今のポールにはこのくらいの規模、選曲が最も快適なのではないだろうか。自分のボーカルも、バンドの演奏も、観衆ひとりひとりもポールの手の中にすっぽり収まって自由自在に制御しているように感じた。一度に数万人を万遍なく楽しませることが求められる普段の公演がポールにとってプレッシャーになっていないか心配になった。
自分も含め多くの人が座り込んで余韻を楽しんでいた(混雑を避けるため?単なる放心状態?)。早々と外に出た人は、観光バスで会場を後にするポール一行を目撃できたようだ。その頃自分はステージ正面に回り込んで写真を撮っていた。
武道館の通路に出ると壁にビートルズ日本公演の写真がいくつか貼られていることに気づいた。ここまでビートルズ日本公演との関連性を強調するとは主催者も罪作りだ。実際のポールの公演内容はビートルズ日本公演とは無関係だった。そんなことポールにとっては知ったことではないのだろうが、せめてI'm Down(ビートルズ日本公演最後の曲)は演奏すべきだったと思う。公演後しばらくは高額なチケット、開演時間の遅れ、演奏曲の少なさに対する批判は根強く残ることになるが、The Endの後にもう一回出てきてI'm Down1曲だけ演奏して帰ったならそれら批判は全て消し飛んでいただろう。
外のベランダに出るとフリフラ回収箱が置いてあった。役目を終えたフリフラはもう統制されることは無く、思い思いの色に光っていた。祭りが終わったことを強調するようで少し切なくなった。
今日ポールは何回「ブドーカン」と言っただろう・・・などと考えながら武道館を後に。一人で参加していたのでこのまま何も語らないまま帰るわけにもいかず、神保町の中華料理屋で大学時代のビートルズサークルの先輩たちと合流し日付が変わるまで今日の公演をとことん振り返った。
後日談:ポールの反応
ポールにとってもこの一日は印象に残ったようで、翌日異例の声明が発表されました。"It was sensational and quite emotional remembering the first time and then experiencing this fantastic audience tonight. It was thrilling for us and we think it was probably the best show we did in Japan and it was great to be doing the Budokan 49 years later. It was crazy. We loved it."
「初めてここ武道館に立った日のことを思い出しながら、今夜の素晴らしい観客の前で演奏することができ、とても心動かされ、感極まる体験でした。
49年ぶりに武道館に戻ってくることができて、とても興奮したと同時に、これまでの日本のショウでも最高のものだったと思います。
とてつもなくクレイジーで、最高な夜でした。」
「これまでの日本のショウでも最高のものだった」などと特定の公演を本人自ら持ち上げるのは、その公演に参加した人としていない人を区別することになり、エンターテイナーとして御法度だと思いますが、そうせざるを得ないほど特別なものだったのでしょう。
さらにその翌日には自転車で日本武道館を再訪したことを写真付きでSNSに投稿しています。
"Biked over from hotel to empty Budokan and sneaked in when workers were getting ready for tonight's event. Brilliant to sit there and relive the other night!"
「ホテルから自転車に乗って、まだ誰もいない武道館に到着。今晩のライブの準備をしているスタッフがいる会場に潜入。ただそこに座って昔の思い出に浸れたのは素晴らしかったね!」
5月になってから日本ツアーの様子がツアー公式ブログに掲載されました。日本武道館の様子も詳しいです。「音漏れ参戦」についての説明もあります。
PaulMcCartney.com gets #OutThere in Japan
公式サイトの写真コーナーでは日本武道館公演の写真が特集されています。
Paul at the Budokan, April 2015
こうして、ポール・マッカートニー日本武道館公演はポールの歴史と日本の歴史、双方に深く刻まれることになりました。来年はビートルズ日本武道館公演50周年です。4年連続来日してのポール本人の公演は難しいかもしれませんが、50周年記念行事にはいろいろ協力してくれるのではないかと期待しています。
4 コメント
素晴らしいレビューありがとうございます!!
返信削除言葉だけでこれだけの臨場感を表現されるのにはびっくりです!
2か月前のあの夜がまざまざと蘇ってきました。
ほんとに、素晴らしいです!
コメントありがとうございます。
削除自分にとっても良い記録になりました。
とうとう武道館レポート、最終章になってしまいましたね!
返信削除早く読みたかった様な、終わらないで欲しかった様な複雑さ(涙)
武道館という空間を共有した、正にあの日に気持ちがリンクします。
時は無情に過ぎますが、克明な文章を読んでいると、時が巻き戻されて再生されていく感じです!
熱はこもっているけれど、冷静で的確なレポート、本当にありがとうございました。
コメントありがとうございます。
削除終わらせたくない気持ちもあったのですが、スカパーの放送が7月11日に控えているのでそれまでに終わらせないと当時の主観的な記憶がスカパーの放送で上書きされてしまうと思ってこのタイミングで終わらせることにしました。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。